もめてしまった事例

知らなかったは通用しない

知らなかったは通用しない

この事例のPOINT

まずは退職金規程の確認を

 

【M社の状況】

携帯電話の販売店を経営しているM社は、バリバリの営業会社で売上げを伸ばしました。携帯電話の契約により、販売手数料を携帯キャリアからもらうビジネスモデルで、連日大忙しでした。携帯電話が広く行き渡ってからは、ネットワークのメンテナンス、パソコン教室、ホームページの作成など、業態や対象顧客を変えながら、20年以上経営を続けてきました。かつてほどの勢いはないものの、20人ほどの社員を抱えながら、何とか顧客と売上を維持している状況です。

 

【社長の死後に備えて】

20年前にお金を稼ぎたいという動機で、同世代同士が励まし合いながら会社を運営してきました。今は全員取締役となり、社長を含め4名の50代役員がいます。社長が55%の株を持っていますが、残りの役員が15%ずつ株を持ち合い、経理、営業、カスタマーサービスのそれぞれのチームを管掌しています。社長の死が経営リスクになることを認識して、会社で生命保険に加入し、役員退職金規程も作成しました。もし社長に万一が起きた場合は、会社に入ってくる保険金で死亡退職金が支払われるように準備しておきました。

 

—ところが、経理の役員が死んでしまったのです。

 

家族同然に付き合った経理の役員の死は、とても悲しいものでした。もちろん、残った3人で協力し、会社の運営に影響がないようにしました。亡くなった役員は経理の責任者ということもあってか、個人的に資産を保有していました。ゆえ、残された家族の生活は大して影響がなさそうです。会社としては、これまでの慰労・功労の意味で、6ヶ月分の特別慰労金を出そうと考えていました。

 

【寝耳に水の役員退職金規定】

経理の役員が亡くなってから、最初の役員会が開かれました。社長が特別慰労金支給の承認を要求すると、他の役員から金額の妥当性と根拠の確認を求められました。社長としては意味不明でしたが、他の役員の話によると役員退職金規程には、社長以外の役員も退職金をもらえるように定められているとのことです。規程をふまえると特別慰労金の額では、退職金の金額に足りませんでした。

 

【制度はあれど、財源がない】

もともと、貯蓄型生命保険は損金として計上できたため、創業すぐから定期的に積み立ててきたものです。役員退職金規程は、借り入れの連帯保証や、自社株の相続を考えた時に、残された家族が会社に関わらなくて良いように、税理士から提案されたものをそのまま、定款に盛り込んだものです。役員に適用するのは良いのですが、規程の金額がそのままでは多すぎます。今回を乗り越えたとしても、次の役員が辞めてしまうと、退職金の支給を待ってもらうか減額するしかありません。社長以外の役員の、退職金に対する財源がないのです。

社長の主張

創業以来お世話になっている税理士の先生から提案してもらった規程なので、何の疑問もなく定めてしまいました。確かに社長以外にも適用されるように書かれています。役員退職金以外に自社株の買取もしなくてはならず、大きな金額になりそうです。手持ちの現預金では全く足りません。また、今回の退職金を減額すると、私の退職金も減額することになるかもしれません。

役員の主張

以前、社長が役員退職金規程をつくられた時に、同意のハンコを押しました。その中に、自身も対象となるような内容だったために、とても嬉しく思っていました。今回、経理の役員が亡くなって、本当に支払われるのか分からなかったので確認をとりました。資金が潤沢にある会社でないことは知っていますが、決まりごとですし、きちんと支払ってくれると信じています。

【もめる原因】

もめる原因1:規程を知らない

以前、一世を風靡した生命保険による利益の繰り延べは、使途を役員退職金とすることで、会社から社長(遺族)への効率的なお金の移転ができるようになっていました。一方で役員退職金の規程を作る際に、税理士や保険会社からもらった「雛形」のまま定めてしまっていることが多々あります。もちろん、他の役員にも適用されるため、きちんと規程を把握しておかないと、急なお金の支払いが必要になってしまいます。

もめる原因2:財源がない

今回は役員退職金の制度があっても、実は財源がなかったという例です。社長のために作った制度が、他の役員にも適用されてしまうのですが、そもそも財源を準備していなかった点が問題です。役員退職金は、働いた年数と役員報酬によって金額が決められることが多いので、大きな金額が動くことになります。また、株式の買取とは別に規定されるため、自社株の買取資金とは区別する必要があります。

 

【もめないためのアドバイス】

役員退職金規程をつくったときは、社長とその家族だけが対象であったのに、時が経つと役員構成や株主構成も変わって行くことがあります。また、この事例のように、何も考えずに規程に盛り込む例も多くみられます。社長がまだ経営者のうちは、役員退職金を減額するのは可能です。しかし、もし自身が死亡退職金を受け取る側になるときに、役員会は満額支出を承認してくれるでしょうか?そう考えると、早めに役員退職金の財源を準備しておく必要があるでしょう。

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