家族のお金
この事例のPOINT
名義預金で相続税が課される可能性がある
【I社の状況】
I社は東京の中心地、新宿で創業した企業の採用全般をサポートする会社です。小さな会社でしたが、社員を徐々に増やしながら堅実に経営してきました。社員が10名ほどになった頃、社内恋愛の末に社長が女子社員と結婚、社長夫婦と社員が力を合わて、ファミリー的な雰囲気の温かみのある会社へ育っていきました。やがて社長の妻は会社を退職し、家庭へ入ることになります。かれこれ20年も前の話です。
【社長の死後に備えて】
採用をサポートする会社は請負契約のため、仕入れがほとんどいりません。利益率が高い業種なのですが、その分、会社の利益を計上する必要があります。社員の給与を高くしているものの、どうしても多額の税金がかかってしまいます。経費を計上するものも少なく、いざというときのために、保険料の一部や全額が損金になる生命保険に役員全員が加入していました。社長だけでなく、役員に何かあったときや、退職する際の退職金原資が目的でした。
—ところが、予期せずに社長が亡くなってしまったのです。
社長の妻は元社員のため、会社の財務状況を把握しています。会社の資産がそれほどないことや景気に左右される業種のため、現金を常に保有しておくことを社長と話し合っていました。住んでいる家は社長名義の住宅ローンのため、ローンの残債務は団体信用生命保険の保険金で相殺されます。会社の株式は役員が継ぎ、役員退職金で相続税を支払うことが可能です。退職金の残りと預金を合わせて、安定した生活が送れるはずでした。
【家族のお金】
妻は、貯めていた現金を自分名義の口座に入れていました。会社をやめてから専業主婦として20年。収入が不安定な社長が家に入れるお金を自身の口座へ移し、家計のやりくりをしていたのです。社長に黙って貯めていたお金は、20年かけて1億円ほどの金額になっていました。
【名義預金と言われて】
相続税の申告・納税手続きは、予定通り、顧問税理士の先生に任せて完了しました。ところが納税を済ませた後、約1年後に税務調査が入りました。そこで指摘されたのは、妻名義の預金です。専業主婦になって20年、収入がない妻が多額の現金を持っているはずがないとのことでした。つまり「名義預金」の認定を受けたのです。
確かに亡くなった主人が家庭に入れていたお金ですが、私腹を肥やそうと思って自分の口座に入れていたわけではなく、お給料を貯金していただけです。そのお金に相続税がかかるなんて、どうしても納得がいきません。税理士の先生に相談しても、税務署に指摘されれば払うしかないとの一点張りです。収入がなくなって将来が不安な上に、更に追加で課税されてしまい、本当にどうしていいかわかりません。
これは典型的な「名義預金」です。もし、社長の個人口座に預金されていたら、有無を言わず財産と認定されて相続税がかかります。20年という期間があるとはいえ、専業主婦である妻が、1億円もの預金が出来たとは考えられません。意図的とは言いませんが、ある意味わかりやすい隠し財産と認定できるでしょう。無論、相続税をお支払いいただくことになります。
【もめる原因】
もめる原因:名義預金
名義預金の定義は、口座の名義人と口座を使っている人が違う場合をいいます。今回の場合、口座名義は妻ですが、普段使っていた口座と貯蓄するための口座を分けていたため、名義預金だと認定されました。亡くなった社長の財産であると認定されると、その口座の金額に相続税がかかることになります。
名義預金と認定されないためには
1:贈与の契約書と出金記録がある
2:贈与税が納付されている
3:相続人が資産を管理している証拠がある
といった証拠が必要となります。
お金には名前が書いていないので、どの資金が口座に入ったものなのかを説明することは困難です。この場合、20年の歳月は長いですが、金額が多額であり、出金記録から生活資金としての実態が証明されないため、名義預金と認定されました。
【もめないためのアドバイス】
資産隠しという意図はなくても、名義預金と認定されると相続税の対象となります。同様に、親が子ども名義で通帳を作り、子どものために預金している場合でも、贈与の手続きは必須となります。もし現金を貯蓄したいというお考えであれば、受取人を妻として貯蓄型生命保険を活用する方法があります。万が一、契約者が亡くなった場合は保険金がおりますし、貯蓄機能で貯まっている現金を部分的に取り出すことも可能です。まずは、家計の管理や資金の移動について社長が把握していないと、相続の全体像を生前に把握することはできないのでご留意ください。。