過去の関係の清算
この事例のPOINT
内緒のお金が発覚した
【J社の状況】
インターネットの発達とともに、ホームページ制作会社として立ち上げたJ社は、大口のお客様を抱え、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しました。社長は30歳で創業し、またたく間に社員数50人、売上高は10億円を超えたのです。裸一貫で立ち上げて成功した社長は我が世の春を謳歌し、毎晩夜の街に繰り出し、豪遊を繰り返していました。それでも会社は堅実に成長し、安定した収益を上げています。J社の未来は明るいように思えました。
【社長の死後に備えて】
現在、会社の収益はホームページの制作よりもサーバーの保守管理がメインとなり、一定の現金収入が見込めました。高くなってしまった会社の株価は、会社が買い取る契約をしているため問題ありません(金庫株)。また、将来の経営については共同創業者が担う手筈になっています。何よりも無借金経営なので、誰にも迷惑をかけることなく存続することが可能だと考えられました。一方で家族に対しては、十分な役員退職金が支払われるように規定を整えたのです。すぐに亡くなるとは、まだ若い社長自身は想定していませんでしたが、念のために万全の準備を施していました。
—そのような中で、社長が突然亡くなってしまったのです。
社長は若くして亡くなったため、突然の出来事に妻はとても悲しみました。しかし、悲しみを引きずるわけにはいきません。残された家族は生活していかなければならないのです。子供はまだ小さいものの、夫が残してくれたお金が安心材料になり、子育てしながら生きていく決心もできました。幸い夫の両親との関係もよく、子育てだけでなく様々な面で支援をしてくれそうでした。
【多額の使途不明金】
ところが社長が亡くなった後しばらくして、ようやく生活が落ち着いた頃に会社へ税務調査が入りました。その際、会社に多額の使途不明金があることを指摘されました。会社の役員も全く知らない社長の個人的な支出ということで、家族に相続税が加算される可能性があるとのことです。会社の資金を管理していたのは亡き社長であり、意味不明の指摘に残された家族は途方に暮れました。
【社長の裏切り】
その資金を追っていくと、家族の預かり知らぬ女性への送金とマンションの購入があったとのことです。亡き社長は、家族や会社に内緒で夜の街の女性名義でマンションを購入し、生活費の面倒をみていたのでした。知らないところで愛人を作って、妻としては寝耳に水の裏切りです。こうなると残された妻と義理の父母の関係もギクシャクしてきます。何より問題なのは、妻から恨み節や結婚への後悔が芽生えてくるようになったことでした。このような状態で残された家族が幸せになれるはずはありません。
家族思いの優しい夫だと思っていたのに、何もかも信用することができません。楽しい思い出も子供への愛情も全て嘘だと思えてくるのです。こう言っては大変申しわけないのですが、義理のお父さんお母さんも知っていたのではないかと疑ってしまいます。こんな疑心暗鬼の状態では、子供と会わせることも躊躇ってしまいますよね。今までの結婚生活は何だったのかと、本当に悲しくなります。課税されなかったことだけが幸いです。
遺族の方には、使途不明金の存在をお伝えしました。ご家族には一切心当たりがないとのことでしたので、裏でこの資金の流れを調べさせてもらいました。結果、行き先が掴めましたので、ご家族ではなくそちらで処理をさせてもらいました。
【もめる原因】
もめる原因1:内緒の資金
会社資金は社長が決裁することがほとんどです。自身が使ったお金は、社長自身が承認できます。表面上は取り繕うことができたとしても、社長が亡くなった際には、自身のお金と会社の決算が合わないことがあります。会社の余裕資金で支出をしたと思っていても、自身への支出として認識されることがありますので要注意です。
もめる原因1:生前の行動
生前の行動が資金の使途から明らかになるというのは、実際によくあります。行動の善悪はさておき、亡くなった後に家族を悲しい思いにさせるのは本意ではないはずです。社長の決裁で自由に使えるお金はあったとしても、せめて会社と個人の資金の区別はきちんとしておかないと、家族だけでなく様々な人を悲しませる結果になります。
【もめないためのアドバイス】
社長はずっと生き続けて社長でいられると思いがちですが、いつか帳尻合わせをしようと資金融通をしているうちに、亡くなってしまうことが見受けられます。社長以外が口座を覗いた時に、用途不明な資金がみつかることは多々あることです。使途不明金が最後は表に出てきて、課税対象となることもあります。どのように資金が使われているのか明確にして、きちんと第三者に伝えておくことがトラブルを防ぐポイントです。