もめてしまった事例

友人関係は二人だけのもの

友人関係は二人だけのもの

この事例のPOINT

亡き社長とは友人であっても、家族とは友人ではない。

 

【E社の状況】

E社は広告代理店です。20年ほど前に社長と専務が立ち上げました。二人は大手広告代理店で仕事を通じて知り合い、気が合って独立を果たしたのです。社長は営業を専務は制作を担当し、会社は成長していきました。20年の間に多少の対立はありましたが、お互いのことを思いやり、足りないところを補い合って、社員数も15人を超えるところまでになりました。中堅企業の広告プランニングを丸ごと引き受け、安定した業績を維持しています。

 

【社長の死後に備えて】

社長も専務もどちらが上ということはありません。友人同士の会社なので報酬も一緒。お互いに話し合いながら経営してきたのです。もちろん、まさかの事態に備えての準備はしています。もしもどちらかが先に亡くなることがあれば、お互いの家族に1年間はそのまま報酬を支払うということを取り決めました。幸い両家ともに子供は独立し、配偶者も自身で仕事を持っています。ゆえ、家計に差し迫った心配はなく、お互いに体は元気なので、軽く申し合わせただけで終わらせていました。

 

—ところが、社長が亡くなってしまったのです。

 

社長の生前に話し合っていたとおり、専務は立派な葬式を執り行いました。取引先のあいさつ回りから遺族に対しての一時金、そして取り決めた通り、一年間の役員報酬相当額の支払いを約束しました。相続のために現金を準備する必要がありましたが、会社は儲かっていたので会社の方でもつことにしました。そして、社長の奥様も喜んでくれていたのですが…。

 

【自社株式を巡って】

社長が亡くなった後、一年半して奥様が急逝されました。専務としては驚くばかりですが、一年間の役員報酬の支払いも終えていたので、そのまま静観していました。ところが、それからしばらくして息子さんから連絡が入ったのです。「母へいろいろとご援助いただきまして、本当にありがとうございます。ところで急なお願いですが、私が相続した会社の株式を買い取ってほしいのですが…。」

 

【どこまでが友達?】

寝耳に水の申し出です。奥様に対しては、生前の社長との約束通り支払ったものの、息子さんに対しては何の約束もしていません。とはいえ、息子さんは株式を相続して、相続税まで払っているとのことでした。相続を放棄しろとも言えませんし、一方で面識のない息子に金銭を払わなければならないとなると、どうにも腑に落ちませんでした。

専務の主張

社長の亡くなった後すぐに、まさか奥様まで亡くなるとは想像もしませんでした。自社株については、いずれ買い取らなければいけないことは分かっていたので、後日、ゆっくりと交渉するつもりでした。社長と一緒に起業して、お互いの家族にも支えられながら経営を続けてきたので、迷惑のかからないように話し合って来ましたが、急に買い取りをするのは金銭的に負担が大きすぎます。15人の社員に対しても、説明がつきません。

息子さんの主張

この1年で両親を亡くしたので、相続が本当に大変でした。わずかの間に2度も税理士の先生にお願いする羽目になりました。何とか相続税を支払ったのですが、土地や家をそのまま引き受けなければならず、母親の現金では足りなかったので、自分の預金と更に借り入れをして相続資金をねん出しました。父の作った会社のことはよくわからないですし、経営を継いでいるわけではないので株式を買い取ってほしいのですが、応じてもらえませんでした。借り入れの返済も大変ですので、早く現金が欲しいのですが…。

【もめる原因】

もめる原因1:友人関係

共同で会社を立ち上げるというのは、うまく行っているうちはいいのですが、将来、トラブルのもとになります。特に経営が友人同士だとしても、配偶者とも友人同士というわけではありません。さらにその子供となると、あくまでも他人です。知らない他人と会社を共同経営することも、要望されて株式を買い取ることも、心情的に躊躇してしまいます。

もめる原因2:相続税

相続税は待ってくれません。経営が順調な会社であればあるほど、相続税が大きくなる場合があります。それは、自社株の存在。自社株の評価額が高ければ高いほど、相続税が高くなるからです。更に一度相続すれば終わりということではなく、その次に新たな相続が待っていることが多々あります。

 

【もめないためのアドバイス】

共同経営の会社は日本に多く存在しますし、経営者が友人同士という場合も多く見られます。そのような中で共同経営者が亡くなった場合、遺族に必要だから現金を融通するというのは、表面上うまくいったように思えるかもしれません。しかし、将来の株式の買い取りまで目が向いていないと、大変なことになります。遺族からしてみれば、売るに売れない株式を相続して、多額の相続税を支払う事態に陥ります。一方で会社側からすると、相続税も考えてお金を融通したのに、更に現金を要求されるのは納得がいかないでしょう。事業を引き継いだ共同経営者と遺族は友達ではないのです。株式をどのように処理するのかは、残された遺族が困ることがないように、生前に決めておく必要があります。

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