強すぎる創業者
この事例のPOINT
後継者が決められない
【C社の状況】
C社は創業40年を数える建材卸売会社です。社長が裸一貫から起業して強い営業組織を作り、地域の建設会社や建築会社に必要とされる会社へ成長させてきました。地方の中核都市に本社を構えることで、都市の成長とともに会社も大きくなりました。組織は若者から年配者まで幅広い人材を揃え、バランスの取れた社員構成です。そんな会社で唯一不安なことは、社長が80歳を数えているのに、後継者へのバトンタッチができていないということでした。
【社長の死後に備えて】
社長自身は事業承継の必要に駆られていました。自分の息子に継がせようと考えている反面、社長が思い抱く企業存続のカギは強い営業組織です。その営業組織を自分の息子に任せるのは心許ないと感じていました。幸いなことに80歳を過ぎても健康状態は問題ありません。とりあえず相続の準備をしつつ、もし自分に何かあったときは、番頭である営業部長に息子を支えるようにお願いをしていました。
—ところが突然、社長が亡くなってしまったのです。
亡くなった社長が心配していたことは、取引先との関係性が弱まることや、営業組織が弱体化して会社の基盤を損なってしまうことでした。突然、心許ない息子が社長を継ぐことになりましたが、幸い営業部長がしっかりと取引先との関係を保持し、また営業組織も社長の遺志を汲んで底堅く売上げを伸ばしました。それも長くは続きません。内部では問題が起きていたのです。ある日突然、営業部長は会社を辞めて、競合会社を立ち上げてしまいました。
【会社の経営とは】
亡くなった創業社長は、親分肌の社長でした。毎日社員と話をしながら、社員の日々の生活から、葬式・結婚に至るまで細やかに気配りのできる人でした。仕事には厳しいものの、それでもついてくる社員に対しては、公私にわたって深い付き合いをする人で、社員は創業社長にとても恩義を感じている人で構成されていました。一方で、後継社長は現代っ子らしくある意味ドライで、給与と制度で組織を作っていこうとします。結果、社員たちは昇給や福利厚生をいたずらに主張するようになりました。後継社長は要望に応えるものの、売上は徐々に下がり始めて社員も働かなくなっていったのです。その結果の営業部長の退社でした。
お世話になった創業社長の息子さんですから、遺志を継いで全力で支えてきました。でも、やりがいという意味ではちょっと失せてきました。以前は創業社長のために頑張って徹夜仕事なんかもしたのですが、そんな時代じゃないのかもしれません。給料や福利厚生が充実するのは良いことには違いありませんが、経営者としてあるべき姿を考えると、後継者には欠けている部分が多くて、私も支えることに疲れました。
社長を引き継ぐにあたって、営業部長がフォローして私や会社を支えてくれました。一方で私自身の未熟さを痛感することが多くて、営業部長のように社員が付いてきてくれません。社員の要求を汲んでも社内がバラバラになっていく気がします。もっと早くから経営を引き継ぐことが出来ていれば、先代の社長、すなわち父から直接教わることもできて、今よりは経営者らしくいられるのかなと忸怩たる思いに駆られます。
【もめる原因】
もめる原因1:後継者を決めない
創業者は自分がやってきたことに対して、思い入れを持っています。
そして、後継者を決めるにしても理想は高く、お眼鏡にかなう人がいないと感じてしまいます。
自分のコピーを探し求めることが多く、そうなると自分の息子といえども、後継者として指名しないまま長年社長の椅子を譲らないことが多くあります。
いきなり社長といわれても、後継社長も社員も戸惑ってしまうばかりです。
もめる原因2:組織の求心力
会社は人事と予算と言われますが、本当にそのとおりにできているのは、大企業と言われる会社のみです。中小企業においては、創業社長であればそのカリスマ性や人情についてくる社員が多くいます。それが求心力となり強い組織が成り立つのです。
ただ単に、人事権と予算である決裁権を渡したところで、強い組織は維持できません。
【もめないためのアドバイス】
「後継者を決められない創業社長」こういったケースがとても増えています。創業社長から見ると、息子に継いでほしいと願っているのですが、なんとなく頼りなく感じます。このまま継がせても、上手くいくように思えないのです。そんな懸念を抱く創業社長には3つの選択肢が考えられます。
1:後継社長を早めに決めて、後継者の組織をつくる
2:M&Aをして、経営主体を変更する
3:家族にはお金を、社員には経営権を渡して分離する
創業社長としてどうするか?早めの決断をすることが重要です。