もめてしまった事例

割ることが出来ない土地

割ることが出来ない土地

この事例のPOINT

相続問題が会社の重大事に

 

【D社の状況】

D社は医療機器のメーカーです。血圧に関わるセンサーや制御装置を製作販売しています。この分野は特許がモノをいい、ほぼ独占と言ってもいい市場を作っています。研究開発に関わる投資や医療業界との共同開発も順調に進んでいて、ニッチではあるものの、長期安定の企業として高い評価を得ていました。

 

【社長の死後に備えて】

社長も開発者として長く第一線で働いていましたが、すでに第一線を退いていました。子供は3人の兄弟がおり、次男、三男がすでに会社の核となり、次男は研究開発責任者の副社長として、三男は営業責任者の専務として働いています。長男は全く別の仕事をしていましたので、会社の経営とは関わりがありません。長男からは、会社の株式は次男と三男に相続すると承諾を得ていました。

 

—ところが、社長が亡くなってしまって問題が起きたのです。

 

巨大な資産を築いていた先代社長は、事業承継と相続の準備を怠りませんでした。会社の経営に関わる次男・三男と、関わらない長男とは別々に遺産を残し、株式は下の二人に、自宅は長男に渡しました。相続税にかかわる現金を残し、さらに、自分名義で貸し付けている工場用地は三人の共有名義として、毎月各家族に均等に支払われるように決めていました。

 

【土地を巡っての争い】

創業社長が亡くなってまもなく不況が訪れました。D社も影響を受けましたが医療のニーズは安定していて、それほどの問題もなく経営が続けられました。ところが、影響を受けたのは長男です。自身で立ち上げていた事業をたたんだ結果、大きな借金が残ってしまいました。長男は、ひとまず再出発しようと、土地の権利を次男と三男に買ってもらうように画策しましたが、結局、断られました。それでは会社に買って欲しいと依頼したところ、次男と三男の同意がいるとのことで、交渉は暗礁に乗り上げたのです。

長男の主張

親父が残して相続した土地に工場が建っているので、いままで家賃をもらっていました。大変有難かったのですが、今は大きな借金を背負ってしまったので、売却して早急に現金化したいと願っています。とはいえ、弟たちに相談してもお金はないと言いますし、このままでは自己破産しなければなりません。自己破産すると、他人に土地の権利が渡ってしまうので、余計に厄介だと思うのですが。

次男・三男の主張

長男も均等に相続したので、このままの状態を継続してほしいです。特に会社は数十人の社員を抱えています。彼らの生活を脅かすことになる「土地の権利を売る」というような脅迫まがいのことを要求されても、到底認めるわけにいきません。健全で安定した経営は、亡くなった先代が口を酸っぱくして言っていたことですし、いい加減大人なのですから、個人のことは個人で収拾してほしいものです。

【もめる原因】

もめる原因1:将来はわからない

どんな優秀な経営者でも、将来のことはわかりません。

特に、自分以外のことに関してコントロールできるものは殆どありません。

家族の金銭状況、会社の収支、経営状況によって、意見や立場は大きく変わっていきます。
この場合、兄弟に全く悪意はなく、お互いの意見を伝えているだけですが、立場が違うために優先順位が平行線なまま話が止まっています。

もめる原因2:共有名義は怖い

土地の使用料として、会社から兄弟へ副収入が入るようにしたのは創業社長の親心です。
上手い仕組みには違いありませんが、土地には工場が建っています。
先ず現金化しようとしても、双方の同意がない限り売却は出来ません。
また、買い手が会社しかない場合、会社に現金が用意されていないと即売却は不可能です。

 

【もめないためのアドバイス】

個人名義の土地で、土地を会社に貸し付けている場合は注意が必要です。
会社のトップである社長と、土地の名義人が一致するときは問題ないのですが、亡くなった後にバラバラになる可能性が生じます。また、共有名義にしても、共有した人たちが同じ生活環境にいるわけではありません。いろいろな要因が重なると意見の齟齬が生まれ、対立する場合があります。
そんな状態では、土地を売りたいときに売れず、なんのメリットも得られないのです。このようなケースでは、家族と会社の資産分離の準備をお勧めしています。必ず亡くなる前に準備するようにしてください。

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